OJTは新入社員を教育する手法の中でも最もメジャーな手法として採用されています。
OJTの教育で注意すべき問題点と成功させる手法
OJTとは
OJTの正式名称は「On-the Job Training」となっており、読んで字の如く現場の中でトレーナーである先輩社員から業務に必要なスキルや仕事のやり方を学んでいく手法です。
OFF-JTとは
OJTとは異なる新入社員育成の手法として、OFF-JTがあります。これは「Off The Job Training」の略称であり、現場とは離れて主に研修を通じて各部署の教育担当者や外部講師から学ぶ手法です。
OJTとOFF-JTの違いとは
OJTとOFF-JTには、以下のような違いがあります。
場所
まず、大きく異なるのは指導が実施される場所です。OJTは実際に働きながら学ぶため、現場となる職場内で行われるのに対して、OFF-JTは職場外で行われます。ただし、最近はどちらもオンラインで実施する企業も増えています。
期間
OJTは業務を通じて中長期的に続けるケースもありますが、OFF-JTは研修やセミナーによって短期的にまとまった時間を取って行うのが一般的です。
内容
指導内容として、OJTでは所属する部署の業務に直結するノウハウを実践的に習得することが多いですが、OFF-JTでは基本的に会社全体で求められる汎用的な知識を身につける傾向にあります。
新入社員育成の中でOJTはメジャーな手法とされていながらも、実は成果につながりにくい手法と言われています。なぜ多くの企業で教育の手法として用いられているにもかかわらず、成果が出ないといった事態が起きているのでしょうか? 今回はその問題点を詳しく紐解いていき、改善を促すために必要なことや、OJTの効果を大きく伸ばすために有効な手法「1on1」について取り上げていきます。
OJTがうまく機能しない原因
産業能率大学・総合研究所が平成25年度に実施した「企業・組織における人材育成の現状について」の調査によると調査対象の9割にものぼる企業がOJTを中心とした教育をしていると回答しました。しかし、OJTを中心に教育を行っている企業の約1割強の企業からしか「OJTによる教育が正常に機能している」という回答を得られませんでした。
つまるところ、残りの8割以上の企業はOJTに対してなにかしらの問題を抱えていたという結果になります。 OJTが上手く機能しない主な問題点は大きく分けて、受け手側である新入社員のメンバーシップ(教わる態度)に問題があるという側面と、OJTを実施する側であるトレーナーや職場の環境・体制に問題があるという2つの問題点が挙がりました。
OJTにおける新入社員側の問題点
OJTの対象はまぎれもなく新入社員です。OJTが機能しない問題点には、OJTの受け手である新入社員側に何か問題がある場合があります。その問題点とは、具体的にどのようなものかをまとめてみました。
著しいストレス耐性の低さ
新入社員を育てる上で一番の問題点となるのが、このストレス耐性の低さです。
新入社員世代の育ってきた環境は少子化社会の影響もあり、いささか過保護な傾向がありました。そのため家庭ではもちろんのこと、学校などの教育現場においても大人に厳しく接せられる機会が極端に少なく、結果的に叱責やプレッシャーなどのストレス要因に対しての耐性は低いままです。そのため、教育の手法によってはストレスにより心身の不調を訴え休んでしまうケースが発生してしまいます。
受け身すぎる姿勢
OJTはその性質上、トレーナー側も自身の業務をこなしながら実施するため、新入社員につきっきりという訳にもいきません。しかし、一方の新入社員は言われた以上の事はせず、受け答えにおける反応も曖昧で分かっているのかわかっていないのかも伺い知ることが難しく、相当なことが無い限り自ら仕事について質問をしない傾向にあるとされています。
新入社員がこのような受け身主体の姿勢になる背景については、自分で考える機会を持つことがなくても周囲がすべてやってくれた環境が長く存在してきたことや、コミュニケーション不全によってトレーナーに対して遠慮をしてしまうといったことがあります。
この様に、OJTの機能を妨げている問題点には新入社員のモチベーションに起因している場合が少なからず存在します。ゆとり世代,さとり世代など世代間ギャップが取り沙汰されている昨今において、新入社員世代のモチベーションを維持するのは容易なことではありません。
仮に自社でのOJTの機能を妨げている問題点が、受け手である新入社員側のモチベーションにあった場合は、まずこの問題を解決する必要があります。新入社員の特徴を理解しモチベーションを維持するための手法をまとめた記事をご紹介します。是非こちらもご参照ください。
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OJTにおけるトレーナー側の問題点
続いて、OJTトレーナー側の問題点にフォーカスしていきます。OJTがうまく機能していないとき、新入社員側の問題点が多くを占めているように感じてしまいますが、意外にもトレーナー側の問題点も数多くあります。双方の問題を比較して最終的なゴールである効果的なOJTの運営へのヒントを探っていきましょう。
教育する時間がない
OJTのトレーナーはほとんどの場合、自身の業務をこなしながら教育を実施しています。これは想像以上に負担が重く、OJT自体が形骸化してしまい、新入社員がきちんと教育されることなく放置されるというケースも多いようです。事実、OJTのトレーナーを務める社員からは「(OJTをしても)仕事が減らされるわけでもなく負担を感じる」という声が挙がっているようです。
その結果、おのずと自身の業務に集中してしまい、教育する時間が足りないという問題点が生まれ、OJTが機能しなくなるという状態に陥ります。
教育へのマインドセットが低い
労働力不足やAIの台頭による影響で、人材の教育への要求水準は高まっており、よりいっそうOJTに期待が向けられるようになってきています。その一方で、OJTのトレーナーが持つ教育に対するマインドセットの低さも問題点とされています。
具体的には、「将来、企業を背負って立つような人材を教育している」というような意識を持って新入社員の教育に臨めていないということです。とはいえ、OJTのトレーナーは人材教育を専業とするプロフェッショナルではありません。あくまで先輩社員として新入社員に対して社会人としてのマインドや仕事の手法を教えているに過ぎません。
「行き当たりばったりの任命であり、OJTに対して会社から特別に評価される訳でもない」という本音がOJTの担当者にはあり、なかなか高いマインドセットを持てないようです。
教育する技術や習慣がない
OJTのトレーナーの多くは、自身の教育手法に不安を抱えながら教育をしているのが現状です。また、全体的に見た時もOJTのトレーナーによって教育の手法や水準にバラつきがあり、新入社員の成長にもバラつきが見られるという現象があらわれます。これではOJTが担う本来の役割を果たすことができず、結果的に機能していないという問題点を残します。
OJTの成功はトレーナーの水準で決まる
ここまで、OJTの機能を妨げる問題点を新入社員側とトレーナー側の二つの視点に分けてご紹介しました。OJTを上手く機能させるためにできることは何でしょうか?もちろん新入社員側にも問題点はありますが、それを教育するOJT側の問題点から解決したほうが教育の質を引き上げるという意味でも効率がよいでしょう。
ここからは、OJTの質をあげるためにトレーナーが伸ばすべき能力についてご紹介していきます。
トレーナーの教育へのマインドセット醸成
OJTの目的とはなにか?
トレーナーの教育へのマインドセットを醸成するには、OJTのトレーナー自身がOJTの目的と基本原理をしっかりと理解することが大切です。まずはじめに、OJTを行う目的は大きく二つあります。
新入社員の戦力化
OJTは集合研修のように新入社員が現場を離れる事なく業務の中で実践を育成を行えるという面が最大のメリットで、早期に新入社員の戦力化を期待して導入する企業も多いです。
指導を行うトレーナー側のスキルアップ
OJTを担当するトレーナーは、自身の業務と並行して教育を実施しなければならないため、担当する新入社員にトレーニングをする間も絶えず効果を検証し、修正・改善をしなければなりません。
このような経験は、特に中堅層のマネジメント意識を醸成する上で欠かせないプロセスであり、OJTの経験を通してビジネスパーソンとしてのスキルアップを促す事もその目的に含まれています。
OJTの基本原理の理解
続いてはOJTの基本原理です。OJTは「見定め」「計画的」「重点的」「継続的」の4つの要素を基本原理に据えて実施・運営することとされています。
OJTは集団研修とは違い、個人合わせてカスタマイズしたプログラムで教育を進めていくことが可能な手法になります。その強みを活かすためには、何よりもまず人材の特性やポテンシャルを見定めなければ始まりません。そして個人の特性やポテンシャルに沿った教育の方向性や実施計画をたて、現場の中で重点的に、かつ継続的に教育を行うことが効果的なOJTを実施するための基本原理になります。
OJTのトレーナーは、人材の戦力化の担い手として新入社員を会社から預かっているという意義を認識するとともに、4つの基本原理に沿って教育を実施することを大前提として理解することがマインドセットの醸成につながります。
習得するべき教育スキル
与えるためのティーチングスキル
ティーチングとは、教える技術のことです。基本的には説明や指示・伝達などの「押し型」のアプローチと言えます。
OJTにおいては業務の意義や目的などを教えたり、新入社員に対して口頭の説明や実際にやってみせたり、フィードバックを行うなどの基本的な教育フローにおいて使用する機会が多いスキルでもあります。日々の業務の中でも伝達や指示を分かりやすくシンプルに行うことを心がけるなど、必要に応じて同僚や上司にフィードバックをもらい伸ばしていく必要があります。
引き出すためのコーチングスキル
先ほどのティーチングとは違い、コーチングとは相手自身に考えてもらうために質問をしたり、アドバイスを通して助けたりする「引き出し型」のアプローチです。
新入社員を対象にする場合、最初はティーチングによって意義や目的・概念などを伝えて理解してもらい、実践を通して理解したことを応用してもらう必要があります。そのため、自立して考え、答えを導き出すプロセスを徐々に体験させていくのですが、その中で壁にぶつかってしまい修正が必要になった場合に、質問やアドバイスを通して答えを導き出すコーチングスキルが求められるのです。
こちらも日々の業務の中で意識的に伸ばすことができますし、コーチングは近年注目されている教育スキルでもあるので書籍や外部セミナーなどで磨きをかけることも可能です。
OJTの成果を高める手法「1on1」とは
1on1ミーティングとは
1on1ミーティングとは上長やOJTのトレーナーと新入社員の間で個人面談を行い、日々の業務での成果や失敗について話し合い、部下に気づきを促すことで個人の能力を引き出すことを目的として行うミーティングです。
個人面談といっても、1on1ミーティングで実施される面談は評価や査定が目的ではありません。面談は終始フランクな雰囲気の中で行われ、一定の期間ごとに業務経験を振り返る事によって学びや発見を定着させ成長が促進されます。
1on1実施の事例
1on1ミーティングは既に多くの企業で導入が始まっています。プロトタイプとしての試験的導入ではなく、全社規模での正式なプログラムとして導入されているところも多く、ヤフー,グリー,ソフトバンク,クックパッドなどIT企業での導入が盛んです。
ある企業では1on1ミーティングを社員間のコミュニケーションだけに留まらず、上手に人材教育にも応用している事例がありますので、ご紹介させていただきます。
その企業では週1回、30分の時間で直属の上司と1on1ミーティングを行っています。また月1回のペースで他部署のリーダーや社長とまで1on1を行うフラットな環境を置いています。基本的には仕事の悩み相談や雑談が多くを占めるそうですが、同社カスタマーサクセスチームは1on1の中で以下の項目でセルフレビューを実施しました。
1.取り組んだ課題
チームの年間目標に対する週単位でのショートゴールと、お客様対応のレベルといった個人目標の達成度などを課題に設定。
2.成功した点
設定した課題に対して「何をやれたか」「ゴールにはどれくらい近づいたか」などを報告。
3.反省点
設定した課題に対して「何が足りなかったか」「ゴールに近づくためには何をどうすべきか」をまとめる。
4.翌週の課題設定
成功した点を伸ばし、反省点を改善するために翌週「何を、どうするか」を設定して宣言する。来週の1on1へのフィードバックに備える。
5.相談事項
日々の業務についてや雑談など
以上の項目に対しマネージャーは”Strong Pont”(強み)、”Improve Point”(弱み)の2軸で適切なフィードバックを返しており、PDCAにおけるCheck ,Actionのサポートを行っています。
新入社員は、慣れない業務に対して“目の前の事で精いっぱい”という状態に陥ってしまいがちですが、週1回のフランクな面談の中で不慣れなPDCAをサポートしてもらい、自分の課題に気付ける貴重な機会となっているようです。
OJTにもたらす1on1の効果
1on1ミーティングがもたらすOJTへの相乗効果は、上長やOJTのトレーナーが現場における新入社員の状態やポテンシャル・成長可能性などを把握できるという点があげられます。OJTの基本原理には「見定める」という項目がありましが、まさに1on1ミーティングは教育対象の新入社員を見定めることのできる絶好の機会になるといえるでしょう。
1on1ミーティングは執務的なミーティングではなく、業務上の相談ごとや質問はもちろんプライベートな話まで、くだけた空気感の中でお互いが話し合うので、教育対象である新入社員がどういう考えを持っていて、どんな性格なのか、ありのままの本人を見ることもできます。
また、コミュニケーションの促進にもつながり、信頼関係を強める機会にもなり、早期離職やモチベーションの低下の予防の効果もあります。1on1ミーティングを上手にOJTと組み合わせることによって新入社員世代とのさまざまなギャップを埋めていくと共に、即戦力化という目的達成を優位に進めることができるでしょう。
まとめ
現状、OJTは8割を超える企業で機能不全を起こしています。その問題点はさまざまですが、教育対象が新入社員である以上は、社会人としての経験が豊富なトレーナー側がどのくらい新入社員に歩み寄ることできるかが重要となってきます。
またOJTの効果をあげるためには、まず目的や目標・実施の計画をしっかりと建てることが大切です。教育の計画を建てることにより、トレーナー側も会社が求める人材像やOJTにおけるゴールを理解し易くなり、現場での指導にも活かされます。OJTはあくまで教育の手法の一つですので、教育担当者の方は教育の目的と計画の作成から着手することをオススメします。
1on1ミーティングは社員のモチベーション維持から教育における課題確認まで幅広く効果を期待できる手法です。しかし、実施には担当者であるマネジメント層に人材教育の重要性が理解されないまま行われてしまうと、効果が発揮されないまま終わる可能性があります。効果的なOJT教育を実現するためには、担当者に重要性を十分に理解してもらった上で1on1ミーティングを実施するのがポイントです。そのために、OJTのトレーナー担当者を集めた研修を行う企業も多くあります。
最後に、1on1ミーティングはOJTのトレーナーと新入社員の間で実施する事はもちろん、OJTの担当とその上司の間でも実践するのもオススメです。これにより、OJTの担当はケアレスミスに気付くことができ、トレーナーとしての経験が豊富な上司だからこそ聞ける不安な点やアドバイスなどもあることでしょう。
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