IT業をはじめ、近年では多くの業界が人財不足に直面しています。応募をする人が減ったり、採用コストが増加したりなど、すでに人財難を実感している担当者も多いでしょう。人財不足が深刻な業界では、従業員一人ひとりの生産性を上げることや、適材適所の配置が重要になってきています。その一環として、新たな人事評価制度を取り入れる企業も増えてきました。
ただし、人事評価制度は経営状況や従業員への影響度も大きいことから、見直しには明確な方向性が必要です。本記事で人事評価制度を見直すメリットや課題などを確認しましょう。
人事評価制度を見直すメリットとは?よくある課題や解決策まで解説
この記事のまとめ
- 人事評価制度とは個々の従業員の能力・実績に基づく人事管理を進めて行く上での基礎となる重要なツールであり、「業績評価」「能力評価」「情意評価」を主軸として全体の仕組みが設計される。
- 人事評価制度の策定や見直し、そして運用では「評価者による基準のばらつき」「人件費やシステム費などのコスト」「定期的なブラッシュアップが必要になる」といった課題がある。
- 「MBO(目標管理制度)」「コンピテンシー評価」「360度評価」などを効果的に導入し、理念・ビジョンに根差した人事評価制度を運用していくことが重要である。
人事評価制度とは
人事評価制度とは、一人ひとりの従業員が発揮した能力や成果などを評価し、報酬や役職、等級に反映させる仕組みです。待遇面に関わるため、人事評価制度の内容は従業員のモチベーションや企業の採用活動にも影響します。
人事評価は、「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」(国家公務員法第18条の2第1項)とされています。人事評価制度は、能力・実績に基づく人事管理を進めて行く上での基礎となる重要なツールであるとともに、人材育成の意義を有するものでもあります1。
簡単に言い換えると、人事評価制度は「何をどのように評価するか」を示したものです。例えば、資格の取得が昇給につながるような仕組みがあると、キャリアアップを目指す方向性が分かりやすくなります。人事評価制度は育成方針のベースにもなります。通常、企業の人事評価制度は「業績評価」「能力評価」「情意評価」を主軸として、全体の仕組みが設計されます。
業績評価
業績評価は、業務による成果で従業員を評価する方法です。営業成績などの数値が基準となるため、客観的な評価をしやすい特徴があります。ただし、景気などの外的要因に左右される場合や、数値だけでの評価が難しいケースもあり、公平性を担保できるとは限りません。例えば、事務や総務などのバックオフィス系の業務は、定量的な評価基準を作りづらい傾向があります。業績だけでの評価が難しい場合は、能力評価や情意評価と組み合わせてバランスを取ることが重要です。
能力評価
能力評価は、業務遂行に必要な知識やスキルを基準にする方法です。主な評価対象としては、企画や計画をする能力、プロジェクトなどの実行力、相手との折り合いをつける折衝力などがあります。企業が能力評価をする場合は、従業員一人ひとりの知識・スキルの習得状況を把握することが必要です。評価制度の運用に手間はかかりますが、一方で人財育成の課題や方向性を明確にする効果も期待できます。
情意評価
情意評価は、業務に対する姿勢や意欲、勤務態度などを基準にする方法です。主な評価項目としては積極性や責任感、協調性、規律性などが挙げられます。定量的ではない項目が中心となるため、主観的な情意評価は従業員からの不平不満につながります。公平性を担保するには、自社のビジョンやバリューなどを踏まえて、評価基準を具体的なアクションに落とし込むなどの工夫が必要です。
人事評価制度を見直す5つのメリット
人事評価制度を見直すことで、従業員の行動や考え方に変化が生じます。具体的にどのような効果が期待できるのか、以下では企業側の主なメリットを紹介します。
1.モチベーションの向上や不平不満の解消
偏った人事評価制度を見直すと、結果だけではなく努力が評価されやすい環境を築くことができます。特に、能力評価や情意評価を取り入れるケースは従業員が「努力を見てもらえる」と感じるため、モチベーションの向上や不平不満の解消といった効果を期待できます。一方で、年齢や勤務年数などに大きく左右される制度では、主に若手社員の意欲を刺激できません。自然とやる気が出る環境を作るには、業務ごとに別の評価基準を設けるなど、誰が見ても公平な仕組みが必要です。
2.適材適所による生産性アップ
人事評価の明確な基準ができると、従業員一人ひとりの能力を把握しやすくなります。その結果として、各々の能力に合った配置転換や部署移動が可能になるため、適材適所による生産性アップにつながるのも、人事評価制度を見直すメリットのひとつです。また、公平な人事評価制度を導入すると、客観的かつ正当な評価理由を示すことで、配置転換や部署移動への抵抗感が薄れるメリットもあります。
3.企業理念やビジョンの浸透
人事評価制度の仕組みによっては、企業理念やビジョンを社内に浸透できる効果があります。例えば、顧客満足度の向上をミッションに掲げている企業が、消費者アンケートの結果を人事評価に反映させるケースを考えてみましょう。この場合、従業員は一人ひとりの顧客を強く意識し、丁寧に顧客対応をすることが予想されます。このように、企業理念やビジョンを人事評価制度に取り入れると、上層部の考えをスムーズに浸透できます。また、多くの従業員が同じ方向性を向くため、チーム力や組織力も向上するでしょう。
4.人財育成の促進
人事評価制度の中でも、特に能力評価は人財育成の促進に役立ちます。適正な能力評価を実施するには、従業員一人ひとりの能力を把握することが必要です。把握した内容から、各従業員に求める能力やレベルを設定すると、人財育成全体の方向性が固まります。結果として効率的な育成計画を立てられれば、採用コストや育成コストの削減も期待できます。
5.企業価値や業績の向上
人事評価制度によって企業理念が浸透すると社外へのアピールにつながる点もメリットのひとつでしょう。例えば、従業員が生き生きと働く企業文化となれば、その噂が広がることで優秀な人財が集まるかもしれません。人事評価制度の見直しはSDGs(※)にも関連するため、自社サイトなどで方向性や実績を公開すると、ほかにも多くのステークホルダーから評価される可能性があります。
(※)2015年の国連サミットで採択された、環境問題・社会問題に対する世界的な目標。日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。
人事評価制度でよくある課題と解決策
公平かつスムーズに運用できる人事評価制度は、容易に作れるものではありません。実際にはさまざまな課題に直面し、導入に失敗する企業も存在しています。ここからはリスクを抑えたい企業に向けて、人事評価制度でよくある課題と解決策を紹介します。
評価者によって基準にばらつきがある
5段階評価のように定量的な基準でも、仕組みによっては評価者の主観が介在します。仮に上司の好き嫌いが評価に反映されると、低評価を受けた従業員は不平不満を感じるため、新たな制度がかえってモチベーションを低下させるかもしれません。適正な人事評価制度を作るには、公平な基準を設けるだけではなく、評価者の目線を合わせることも重要です。不平不満につながりやすい点を意識しながらガイドラインを作成したり、評価のプロセスを統一したりなどの工夫を考えましょう。
人件費やシステム費などのコストがかさむ
人事評価制度を抜本的に見直すと、当初の想定以上にコストが膨らむこともあります。コストの中でも負担が大きいのは、現状分析やオペレーション変更にかかる人件費です。ほかにも、新たなシステムやツールの導入費、既存システムの変更にかかる費用など、企業によってはさまざまなコストが発生します。かかったコスト以上の効果を見込めない場合は、無理に施策を進めるべきではありません。外部のサービスや専門家を頼るなど、特に大きなコストがかかる施策については、費用対効果を意識しましょう。
運用自体が目的になってしまう
人事評価制度見直す目的は、新たな制度の導入・運用ではありません。一人ひとりの従業員が満足し、前述のメリットを生じさせることが目的となります。運用自体が目的になることを防ぐには、定期的なブラッシュアップをしなければなりません。細かい部分を改善して現場が扱いやすい制度になると、運用にかかる労力やコストも抑えられます。
業務形態や雇用形態によっては対応できない
現状に適した人事評価制度を作っても、働き方や業務環境が変わると対応は難しくなります。例えば、2020年には新型コロナウイルスの影響で、テレワークを導入する企業が一時的に増えました。各従業員が自宅で業務をするような場合は、意欲や勤務態度などを目視では確認できません。企業の働き方が多様化するにつれて、こういった問題は増加することが予想されます。そのため、基本的には目視確認が必須となる仕組みは避けるほうが無難でしょう。上層部や上司とのコミュニケーションを増やし、日々のやり取りを通して評価するような方法もひとつの手です。
代表的な人事評価制度とポイント
実際に人事評価制度を見直している企業は、どのような制度を導入しているのでしょうか。以下では、代表的な人事評価制度と運用のポイントを紹介します。
MBO(目標管理制度)
ビジョンや認識などをすり合わせた上で、従業員一人ひとりが自主的に目標を設定する方法です。目標の達成度に応じて人事評価をするため、企業・従業員の双方が納得しやすい仕組みを作れます。
目標の例
- 毎月○件の新規顧客を獲得する
- 毎月○件の既存顧客を訪問し、継続率を△%に増やす
- 毎月月末までに○枚の必要書類や資料を作成する
MBOは自発的な業務遂行を促しやすいため、従業員の意欲やモチベーションを向上させる効果が期待できます。例のように明確な数値目標を設定させると、評価者の主観が入り込む余地もなくせるでしょう。
コンピテンシー評価
すでに社内にいる優秀な人財をモデルにし、そのモデルが備えている能力や行動パターンなどを評価基準にする方法です。目指すべき姿をイメージしやすいため、適正な目標を設定しやすい特徴があります。特に能力評価との相性が良い方法ですが、定量的な評価は難しい傾向があります。公正性を担保するには、モデルとなる人財の行動パターンを基に5段階評価を作るなどの工夫が必要です。
360度評価
上司や同僚、部下など、社内のさまざまな人が従業員を評価する方法です。「多面評価」とも呼ばれており、公平かつ客観的に評価しやすい特徴があります。コミュニケーションを活性化する効果もありますが、その反面で他人の目が気になり、業務に支障が出る可能性も否定できません。また、評価者を増やすほど主観が介在しやすくなるため、評価項目を明確にした上で全社員への周知が必要になるでしょう。
人事評価制度を導入する流れ
実際に人事評価制度を運用するまでには、企業理念の見直しや課題の特定、従業員へのヒアリングなど多くのプロセスが必要です。導入手順を誤ると、ビジョンから外れた評価基準になったり、公平性を担保できなかったりなどの弊害が生じます。
人事評価制度の設計をサポートしているアチーブメントHRソリューションズでは、以下の流れで企業様のコンサルティングを行っています。
人事評価制度を導入する流れ
- 理念の認識統一
- ヒアリング
- 人材開発ニーズの確認
- 教育体系設計
- 評価方法設計
- 教育研修運用支援
計画を立てる際には教育体系まで考える必要があるため、なかなか方向性が定まらないケースも多いでしょう。アチーブメントHRソリューションズは、人事評価制度の設計から運用まで全体のサポートをしておりますので、お困りの企業様やご担当者様はお気軽にご相談くださいませ。
人事評価制度の導入が難しいときは専門家に相談を
PDCAサイクルを回していくことまで見据えると、新たな人事評価制度の運用には大きな労力が必要となります。人件費などのコストもかかるため、単に評価基準を考えるだけではなく、運用計画まで立てることが重要です。自社だけでの導入や運用が難しい場合は、コンサルタントなどの専門家に頼ることを検討しましょう。