企業理念をどのように作成していくかご紹介いたします。30人の壁を越える!ベンチャーの組織作り~入門編~ではベンチャーが組織作りをしていく中で生じる”30人の壁”をご紹介し、それを乗り越えるためには理念から一貫した経営を行うことが重要だとお伝えさせていただきました。今回はその企業理念の作成方法についてまとめました。
ベンチャーが企業理念を作成する方法とは?│30人の壁を超える②
理念とは何か?
そもそも理念とはなんでしょうか?デジタル大辞泉によれば、「ある物事についての、こうあるべきだという根本の考え」とあります。つまり企業理念とは、「誰のために、なんのために、なぜこの会社は存在するのかという経営目的と、何を大切にしているのかという価値観を明文化したもの」ということです。企業理念がはっきりしていないと、会社の立ち位置が不透明で、属する社員は何を支柱にして走れば良いのかという認識を持つことができず、それぞれが思い思いの方向に向かってしまい、30人の壁にぶつかってしまうことになります。この企業理念を構成するものがミッション、ビジョン、バリューです。これらがすべて完成して初めて、企業理念が作成されたということになるのです。それでは、それぞれの構成要素について順番に見ていきましょう。
ミッションを定める
ミッションとは何か?
ミッションとは使命や目的と訳されます。会社がその経営を通して何を実現したいかという会社の存在意義を表したものです。会社の創業者がどういう理由で、どのような世界を実現したくて会社をはじめたのかということに直結するため、創業者の人生背景や創業者の哲学が色濃く反映します。全ての仕事は、このミッションの達成に向けて行われているものでなくてはいけません。そのためミッションが明確でないと社員が現在行っている仕事の目的が不明確で、統一性のとれていないばらばらな組織となってしまいます。
ミッション策定のポイント
ミッションの策定にあたっては、そのミッションに含むべき内容と、含むべきではない内容があります。まず、押さえておきたいのは「三方よし」の考え方です。三方よしとは、江戸時代に全国各地で活躍していた近江商人が大切にしていた哲学で、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」のことを指します。誰かによって「よくない」ビジネスであったとしたらどうでしょうか?売り手によってよくないビジネス、買い手にとってよくないビジネス、世間にとってよくないビジネス。どれも、永くは続かないビジネスです。事業活動を通して社会の役に立ち、お客様にも感謝され、社員からもたくさんの喜びを集めることがベースとしてあるからこそ、会社は利益を永続的に出せるのだということを大前提として押さえておかなければなりません。 このことを踏まえて、ミッションを策定するにあたって気を付けなければいけないのは「利潤の追求」が経営の第一義的な目的となってしまうことです。あくまで利益は目的ではなく、三方よしの経営を行った結果であることを念頭に置かなければ、どこかで誤った経営判断を下してしまうことになりかねません。
株式会社イマージョン、代表取締役社長で優良企業年間120社以上を視察している藤井正隆さんの著書、「感動する会社は、なぜ、すべてがうまく回っているのか?」の中でも、経営目的を利潤の追求としてはいけない理由を3点挙げています。
・企業オーナーの利益の最大化ではなく、従業員が共感できる目的を企業として設定した方が、従業員の支持が得られる。
・目的を利益第一と宣言してしまうと、多様な利害関係者からの支持を得にくい。
・目的を利益の追求におくと判断を間違える。短期的な利益を追ってしまい、長期的に見れば利益の源泉となるということを判断でなくなる。
「年間売上100億円を突破する」「東証一部上場を果たす」「バイアウトを成功させる」といったものは目標であって目的ではありません。この違いをしっかりと認識しましょう。理念を策定する時は、「三方よしをベースとしたものになっているか」、また、「利潤追求が目的になっていないか」に注意を払いましょう。
ビジョンを明確にする
ビジョンとは何か?
企業の存在理由となるミッションを明確にしたら、組織作りを成功させるために次に考えるべきはビジョンです。ビジョンとは、企業理念を追求した結果、将来どうありたいかという問いの答えです。将来の具体的なイメージがあるからこそ、そこから逆算した中期的、短期的な目標を策定することができます。この具体的なイメージが社員にしっかり共有されていることが、30人の壁が引き起こす「社員の向いている方向がバラバラになる」という問題を乗り越えるひとつの施策になるのです。
ビジョンをつくるときに欠かせないこと
すでにビジョンを明文化している企業も、これから明文化する企業も、気をつけたいポイントがあります。それは、ビジョンを考えるときに欠かせないのは”社員”の存在だということです。なぜならば将来のありたい姿を叶えるのは他でもなく、社長と社員だからです。社員がイメージできないビジョンだと、社員のモチベーションは上がらず、当然描いたビジョンが達成されることはありません。社員が自発的に目指せるようなビジョンをつくることが大切です。もし、これからビジョンをつくるという場合には、社員を巻き込んで共に作成するというのも手かもしれません。
2017年の「ベストモチベーションカンパニーアワード」で第1位を獲得した株式会社LIFULLでは、ビジョンを各部署で作成しているそうです。ビジョンを決めるときは原則としてメンバー全員で話し合って決めるため、会社から与えられるビジョンではなく、社員が自分たちで決めたビジョンということになります。すると、自分たちで決めたそのビジョンを実現するためにどのような戦略を立てればいいのか、社員が主体的に考えるようになります。そのビジョンは理念を反映したものでもあるので、社員みんながビジョンの達成に向かうことで、組織としても理念を追求していることにもなります。各部署で作成するかどうかはあくまで一事例ですが、企業理念から一貫したビジョンの達成に向かう状態こそが社員が同じ方向を向いているということであり、30人の壁を乗り越えられる強い組織作りに必要不可欠なことなのです。
いくつかビジョンの例をご紹介しますので参考にしてみてください。 先ほどの三方よしをベースとした理念との一貫性に注目してみてみましょう。
「テクノロジー・コンテンツ・サービスへの飽くなき情熱で、ソニーだからできる新たな「感動」の開拓者になる。」
「先端バイオ・ファイン技術が先導する、確かなグローバル・スペシャリティ食品企業グループを目指します」
「「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供していきます。」
バリューを定める
バリューとは何か?
企業理念やビジョンを明確にしたら、最後にバリューを定めます。バリューとは社是や社訓などと訳されることもあり、「ビジョンを達成するための行動指針」です。会社が大切にしている価値観を反映した具体的な行動や考え方、普段の姿勢を明文化したものです。行動指針がはっきりと定まっていれば、社員が日々の仕事で決断を迫られても、迷うことなくビジョンの達成に繋がる選択肢を選ぶことができるようになります。
バリュー作成時のポイント
ビジョン策定時と同様にバリューを策定する時も社員と一緒に創っていくことが望ましいです。組織作りを本格化するフェーズにいる会社ですと社員数もあまり多くないため全員参加が望ましいです。ただ規模がすでに大きくなっており、全員参加が現実的に難しい会社の場合はバリューを作成するチームを発足しましょう。そのメンバーの中には創業時のメンバーがいることも必須です。創業者のミッションからビジョンまで一番深く理解している人がいれば、策定しているバリューがミッションから一貫しているか判断できます。
実際作るときは、ビジョンを基にブレインストリームをしていきます。ビジョン達成に必要だと思う行動やマインドセット、スタンス面などです。過去の意思決定の基準になったことに目を向けるのもバリューを明文化する上でヒントになります。『日本一働きたい会社のつくりかた』という書籍も参考にしながら、以下に有名企業の行動指針をまとめました。
- ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる。
- 1 つのことをとことん極めてうまくやるのが一番。
- 遅いより速いほうがいい。
- ウェブ上の民主主義は機能する。
- 情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない。
- 悪事を働かなくてもお金は稼げる。
- 世の中にはまだまだ情報があふれている。
- 情報のニーズはすべての国境を越える。
- スーツがなくても真剣に仕事はできる。
- 「すばらしい」では足りない。
Cyber Agent (一部抜粋)
オールウェイズFRESH! 能力の高さより一緒に働きたい人を集める。 迷ったら率直に言う。 挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。 クリエイティブで勝負する。
LIFULL
- 真理を探究し続ける
- 革進の核になる
- 最速で価値を提供する
- 高い目標を掲げる
- 計画を立て完遂する
- 一点の曇りもなく行動する
- 真のチームワークを築く
- すべてのステークホルダーを重んじる
まとめ
今回は、30人の壁を乗り越えられるような強い組織作りに必須である企業理念の作成方法についてご紹介させていただきました。ここまで見てきてもわかるように、企業理念の策定は社長一人でするものではありません。企業理念を実現するには社員の力が必要不可欠で、そのためには彼らが進むべき道を理解している必要があります。そのため、幹部層やマネージャー層を始めとした社員がこのプロセスにどれだけ参加しているかが現場における一貫性の担保に大きく関わります。ぜひ社員とともに、30人の壁を乗り越えるべく、理念経営の実践をしていくきっかけにしていただければ幸いです。
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