今まで各々の個人プレーで成長してきたベンチャー企業も、更なる成長のためには組織としての力が必要になってきます。そのような状態で必要になってくる人材が部下をマネジメントできるマネージャーです。今回も、前回の記事に引き続き、ベンチャー企業がマネージャーを引き抜くために知っておくべき必須情報をお伝えしていきます。この記事ではアプローチに成功し、選考に乗ってもらったマネージャー候補の求職者を口説くまでの過程をご紹介します。
採用におけるマネージャーの口説き方
マネージャー候補を口説くために明確にするべき3要素
人材紹介エージェントやダイレクトリクルーティング、または求人サイトやヘッドハンティングなどにより、マネージャーとして活躍できる逸材を見つけ、アプローチできるところまできたら、次は「どのように採用確定までもっていくか」です。もちろん会ってすぐに突然口説いたりしたら、候補者も突然の強い誘いに戸惑い、せっかく見つけた逸材を逃してしまいます。ベンチャー企業は基本的に知名度も低く、まだ候補者が把握している情報も数少ない状態です。企業側もファーストコンタクトの時点でその候補者のことを完全に理解しているわけではありません。そのため、まずは相手を知り、相手にとって自社の何が一番の売りになるのかを明確にすることが口説く上での重要なポイントとなります。
ポイント1:相手のニーズはなにか?
まず1つ目は、その候補者が「転職先に何を求めているのか」です。 つまり、“相手のニーズ”を明確にすることです。営業活動においても、採用活動においても、相手が存在する以上は相手が何を求めているのかを把握できなければ、口説く以前に的外れのコミュニケーションになってしまい兼ねません。ここでは、一般的に転職者が転職先に求めるニーズをご紹介します。
仕事面
仕事に対するやりがいや楽しみをさらに得たい、仕事を通してさらに成長をしたい、よりビジョンを実現できる仕事をしたいなど
環境面
社風や文化の合う仕事環境で働きたい、良いオフィス環境で働きたいなど
福利厚生面
もっと給料を上げたい、休暇・残業などの条件を良くしたいなど
人それぞれ求めるニーズは異なりますが、ここで重要なのが定量的なニーズよりも、定性的なニーズを知ることです。「年収600万以上」「残業45時間以内」「ストックオプションが持てるかどうか」といったニーズが出てきても、そのニーズに合わせて制度や仕組み、働き方などの条件を変えることで対応は可能ですが、それよりも、どのような仕事にやりがいを感じるか、やりとげたい夢はあるかなど、相手の定性的な部分を知るほうが、ベンチャー企業にとってはそれを実現できる可能性ややりがいを提示することがしやすくなります。
ポイント2:競合他社はどこか?
2つ目の要素は、その候補者が「他に検討している企業はどこか」です。 つまり“競合はどこか”を明確にすることです。相手のニーズを知っても、競合となる他社がその部分でより魅力的な提示をすれば負けてしまいます。競合の中にはもちろん候補者が現在勤めている会社も含まれていますが、自社以外にも転職先を検討している可能性があります。その候補者が他にどこの企業を検討していて、その企業がどのニーズを満たしうるのかを把握することは、戦う前に勝つシナリオを書くという意味でも、重要な要素となります。
ポイント3:自社の強みはなにか?
3つ目は候補者の求めるニーズを満たせる「自社の強みは何か」です。 競合とも比較したうえで、候補者のニーズを満たせて、かつ競合よりも勝っている部分はどこなのかをしっかり見極めましょう。それがマネージャー候補者の口説きのプロセスにおいて最も重要なホットポイントとなります。
3つのポイントを見てきましたが、候補者を口説くためには、定量的なニーズではなく、定性的なニーズのうち自社が強みとしている部分を見つけられるかが勝負といえます。とはいえ、当の候補者自身も自分のニーズに気づいていないことが多いので、面談を通してしっかりとニーズを引き出せるかどうかが鍵となります。
マネージャー候補のニーズを引き出す
重要なのは信頼関係
では、どのように候補者のニーズを聞き出すのでしょうか?逆に、どんな相手であれば、いろいろな話をしやすいでしょうか?これは普段のコミュニケーションにも通じる部分かもしれませんが、大前提として企業側とその候補者との信頼関係の深さによって相手が話してくれる内容も変わります。信頼関係は下記の掛け算によって考えることができます。
信頼関係 = 接触する回数 × 接触時間 × 話の内容の濃さ
大事なことは信頼関係は掛け算であるため、すべての要素を高めることによって深まっていくということです。ただ単純に回数と時間が多ければいいかというとそうではありません。最初の印象や話を聞く態度・表情など、相手がマイナスな印象を抱いてしまえば、信頼関係を築くステージにすら立てない可能性があります。
転職者の選考が始まってから内定をもらうまでにかかる時間は、平均1~3か月ほどとされており、短い期間の中で意思決定を促していくことが必要です。限られた時間の中で信頼関係を築くことは突然できることではありません。普段から誠実で正直なコミュニケーションを心がけ、様々な人との信頼関係を築ける人物であることが必要不可欠です。普段から、聞かれた質問には正直に答え、自分から腹を見せることでお互い腹を見せ合う環境をつくり、より濃密な話をするように心がけましょう。
ニーズを引き出す質問力
経験がある方もいらっしゃると思いますが、質問の仕方によってはより相手の考えが深まったり、気づきが生まれることがあります。YES/NOで答えられる特化質問と、なぜ?どのように?といった5W1Hを使った拡大質問を上手に使い分けることで、相手も話しながら思い出すことや気づくことも出てくるでしょう。
例えば、職務経歴についての質問でいえば、「これまでの職務経歴に満足していますか?」というYES/NOで答えられる質問から始まり、そこからさらに「それはなぜですか?」「その中でも特に充実していたと感じる時期とその理由を教えて下さい」「どのようにそのプロジェクトに関わっていたことが充実感につながっていますか?」「その最も充実していた時期以外では、さらに何があればよりご自身が満足できたと思いますか?」など相手に多く話してもらう質問をすることで、よりその候補者自身も気づかなかった自分の傾向や共通項が見えることも少なくありません。
相手の表面的な言葉で判断するのではなく、一歩踏み込んでニーズを聞き出せるかどうかが競合他社との差別化をするうえでは最大のポイントになります。そのためにも、この質問力は欠かせないスキルです。ぜひ学びながら日常での部下との面談等でも実践し、磨きをかけていくことをおすすめします。
口説くフェーズの2ステップ
候補者が企業に求めていることをしっかり把握し、信頼関係を構築し、自社がそのニーズを満たせるとわかったら、いよいよ口説くフェーズです。
現場感をよりリアルに知ってもらう
ここで大切なのはキーとなる社員に実際に会ってもらうことです。言葉だけで「君の求めている成長はうちで得られるよ」と担当者が伝えても、すんなり納得する人は少ないはずです。実際に、職場で似ているポジションの社員から、彼ら・彼女らの感じた成長を述べてもらった方が格段に実感が湧きますし、現場をよりリアルに知ることができます。また、マネージャー候補は、会社を今後担っていく主要メンバーでもあるので、社長も含めた経営幹部陣とも会い、今後どのように会社が進んでいくかなど、会社の未来について話すことで共に創り上げていく意識も強まります。現場の生の声をたくさん聞くことで、その求職者は自分の求めるものが本当にここで手に入るのだと実感が湧くはずです。
インパクトのあるメッセージでクロージングする
キーになる社員とも会い、会社との信頼関係も十分高まったらいよいよメッセージによって口説く最終段階です。1~3か月という選考期間で、競合よりもはるかに強く、インパクトのあるメッセージで決断を促していくことが重要なフェーズとなります。ここでのメッセージが候補者の求めるものとまったく違うものになってしまってはすべてが水の泡です。これまでの選考期間を通じて具体的にしてきた候補者が本当に求めているニーズを「ここだからこそ満たせる・ここでしか満たせない」と感じてもらうメッセージをする必要があります。最終的に口説く前に競合他社に勝つためにも候補者の立場にたって、どんなメッセージが一番刺さるのか?を十分検討しましょう。
著名な経営者も、当初ベンチャーからスタートしたわけで、彼らもこのクロージングのメッセージで何人もの右腕を獲得してきました。参考までに、以下に3人の経営者の口説き文句を紹介させていただきます。
残りの人生ずっと砂糖水を売りたいか?それとも俺と一緒に世界を変えたいか? スティーブ・ジョブズ
あまりにも有名すぎるこの言葉は、当時ペプシの社長だったジョン・スカリーを口説くときに言い放ったメッセージです。
世界をけん引する自動車のデザインスタジオを創り上げなさい イーロン・マスク
これはイーロン・マスクが当時マツダでデザインディレクターをしていたフォン・ホルツハウゼンを口説くときに言ったメッセージです。実は当時、テスラは倒産寸前だったのですが、それにも関わらず常にイーロン・マスクは世界一を目指していました。そのビジョンの一貫性と意志の強さに、フォン・ホルツハウゼンは安定したマツダでの仕事から火の車経営のテスラ―に移りました。
これまでの人事は、みんなすぐ辞めてしまった。おまえをやっと見つけた。 うちに来て、人事をやれ。800社を預ける。世界を変える。俺の夢に乗れ。 孫正義
2004年当時、まだソフトバンクが今ほど有名ではなく、本体には人事部もなかったときです。初代人事部長の青野史寛を口説く時のメッセージで、30分で口説き落としたそうです。
まとめ
ベンチャーがマネージャーを採用するにあたってどう口説くのか?そのプロセスをご紹介してきました。選考に乗ったマネージャー候補にはまず信頼を重ねていき、相手が求めるニーズと競合を把握し、相手のニーズを満たすもので競合に勝る自社の強みをしっかりと見抜くことが何よりも大切です。その後、社長を含めた多くの社員と会ってもらい、企業の魅力を相手のニーズに合わせてしっかりと訴求していきましょう。そして、最後は確信あるクロージングメッセージを伝えることで、最大のインパクトを与えましょう。組織作りの段階でマネージャーは必要不可欠です。競争は激しいですが、その中でも優秀なマネージャーを採用することは、決して不可能ではありません。是非チャレンジをしていきましょう。
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