クレーム対応と聞くとマイナスのイメージを持たれることも多いですが、お客様からいただくクレームは個人や組織にとって成長の機会でもあります。この記事ではクレーム対応における基本手順をご紹介しながら、社員やスタッフが大切にしたい心得について確認します。
クレーム対応の心得~お客様に納得感を与える基本手順~
クレームとは?
クレームとは、お客様から企業や組織に対する不満や怒りをともなう何らかの主張や要求のことを言います。もともとクレームという言葉は、英語の「claim」から来ており「賠償や保証を要求する」という意味があります。まさに企業としては、お客様との関係や顧客満足(Customer Satisfaction=CS)を保つ上で緊急度の高い対応となります。
ここで、『サービス・マネジメント』という本の中で紹介されている、クレームの背景に何が起きているのかを調査した「eサティスファイ・ドットコム」による興味深いデータがありますのでご紹介いたします。
- 不満を持った顧客の96%は企業に対して何も言わない。一般にクレームが1件あると問題を抱えた顧客は他にも24人存在することになり、そのうち6件は深刻な問題だ。
- 苦情を訴えた顧客は、たとえその問題が十分に解決されなかったとしても、苦情を訴えなかった顧客よりもその企業とビジネスを継続しようとする傾向がある。
- 苦情を訴えた顧客の54〜70%は、問題が解決されれば再びその企業とビジネスを継続しようとする。特に問題が速やかに解決されたと顧客が感じるとその数字は95%にまで上昇する。
- 企業とのビジネスに問題があると感じた顧客は、平均9〜10人にその事実について話す。特にその13%は20人以上と話をする。
- 問題が解決された顧客は、平均5〜8人にその事実を話す。
- 問題を解決しようとして成果が得られなかった顧客は、平均8〜16人にその悪い経験を話す。
このように、顧客の不満を知ることができるクレームをいかに迅速に解決するかということが顧客の不満を満足に変え、新たな被害を回避する重要なポイントであることがわかります。
クレームの発生原因
まずは、何がクレームを引き起こす原因になっているのかを把握することが大切です。クレームは企業や組織が提供する商品やサービスがお客様の期待している水準を大きく下回った時に発生します。どのようなことがお客様の期待を損なってしまうのか大きく3つに分けてご紹介します。
顧客対応の質
1つ目は接客を担当する社員やスタッフの対応の質が低いためにクレームに繋がる場合です。主に以下のような理由が挙げられます。
不機嫌な態度や表情を見せる
担当者の態度・表情がお客様の気分を悪くさせることがあります。お客様への感謝と敬意の気持ちを持つことができていない、またはしっかりと表現できていないことが原因となります。本人は真面目に接客していたとしても、笑顔を見せられなかったり、姿勢が悪かったりすると、お客様には「心がこもっていない」「自信がなさそう」「生意気だ」といったマイナスのイメージを植え付けてしまいます。
失礼な言葉遣いをする
失礼な言葉遣いもお客様の気分を悪くさせることがあります。特に若手の社員やスタッフに多いクレームになりますが、電話やメールを含めて正しい敬語を使うことができていないことが原因となります。
申込や発注時の登録ミス
業務上の処理にミスが発生し、お客様にご迷惑をおかけすることでクレームの原因となります。例えばお客様が申し込んだサービスとは違う内容で登録がされていたり、異なる料金の請求書が届いたりする場合が考えられます。
書類等の紛失
お客様からお預かりした書類やお金を紛失したとなれば、重大なクレームの原因となります。情報漏洩によって会社の信頼が一気に崩れる可能性もあります。
個人情報の取り扱いがずさんである
現代は厳密な個人情報の管理が法律で定められています。書類やメールの誤った配送や送信によって個人情報の流出が起きるとクレームの原因となります。また、申込書の取り交わしの際に個人情報の取り扱いについて担当者が明確に答えられなかったり、個人情報が記載された書類を人目に触れる場所に置いているといった行動があったりするのも管理能力不足と判断されます。
店内や社内、備品が汚れている
衛生環境は「心の鏡」と言われることもありますが、多くの人が汚れた店内や社内ではストレスを感じます。特に飲食店では健康問題にも関係する部分ですのでクレームの原因となります。また、整理整頓がなされていない所では物が倒れてきたり、つまずいて転んだりといった思いがけない事故が発生することでクレームになる場合もあります。
商品の欠陥
2つ目は、購入した商品に欠陥があってクレームに繋がる場合です。例えば届いた商品が壊れていて使えない場合や、何らかの不具合があって正常に機能しない場合が挙げられます。
情報の食い違い
3つ目は顧客側と企業側の間で認識が食い違っていた場合に起こるクレームです。例えば顧客にとって担当者による説明そのものがわかりにくいと感じた場合や、実際のサービスや商品が思っていたものと違っていた場合が挙げられます。
クレームを入れる時のお客様の心情
ここまでクレームが起こる原因について見てきました。クレーム対応において最も重要なことは、お客様の心情理解です。お客様が何に不満を感じて、何を求めているのかを把握した上で適切に対応する必要があります。そこで、クレームを入れる時のお客様の心情にはどのようなパターンがあるのかを5つに分けて解説します。
問題解決を求めている
何らかの困った事態に陥り、問題が解決されるように取り計らってもらいたいと思っています。「サービス利用中にトラブルが生じている」「説明書の内容が不十分で使い方がわからない」など、具体的な解決方法の提示を求めています。
謝罪を求めている
接客中の態度や言葉遣い、発生したトラブルによって不快な気持ちになっており、何よりまずはしっかりと謝罪をしてほしいと思っています。
公平に扱ってほしい
サービスに不公平さや不平等さを感じています。他の人の方が良い待遇を受けていると感じてしまったことで、「公平に扱ってもらいたい」と思っています。
正義感・親切心
「この人はもっとこうした方が良い接客ができるようになる」「この商品はもっとこうした方が便利になる」とお客様が思った時に、正義感や親切心で指摘の声をあげることがあります。このパターンでは、「意見を受け止めてほしい」「今後の改善に活かしてほしい」と思っています。
お金を返してほしい
提供されたサービスや商品に価値を感じられず、支払った代金を返してほしいと思っています。怒りの感情がマックスになっているお客様、もしくは冷静に証拠を揃え、いかにして返金に応じてもらうかということを考えているお客様がいらっしゃいます。
クレーム対応の手順
このようなお客様の心情を理解した上で、どのような対応をしていけばよいのでしょうか?ここではお客様に納得感を与えられる対応の基本手順をご紹介します。
相手の話を最後まで聴く
まずはお客様の話を否定せずに、最後まで真摯に聴くことが大切です。クレームを入れる時の心情は様々なパターンがありますが、どのお客様も何らかの不快な思いをしていることに変わりはありません。その思いをしっかりと受け止めることがクレーム対応をスムーズに進める第一歩です。「早く切り上げたい」という思いを持っていると、それはすぐにお客様に伝わってしまうものです。お客様には話したいことの全貌を話すことができるまで、しっかりと傾聴のスタンスを示すことが大切です。
傾聴のスタンスを示すためには、「うなずき」「あいづち」を「声に出して」行うようにしましょう。特に電話の場合には、お客様に伝わりにくいため、意識的に行うようにすると、お客様の不満や不安が徐々に解消されていきます。
あいづちとしては、「はい」「なるほど」「よくわかります」「そうなのですね」「ごもっともです」などが該当します。 ただし、うなずき過ぎは本当にしっかり聴いているのだろうかという疑念を与えることがありますので、話の40~50%程度を目安にしましょう。
お詫びを伝える
そしてお客様に謝罪をしましょう。この段階ではクレームの詳細がわかっていないこともありますので全面的に非を認めるのではなく、お客様に不快な思いや不安な思いをさせたこと、クレームを入れる手間を取らせた事に対してお詫びの気持ちをお伝えしましょう。ただ、「申し訳ございません」という謝りの言葉だけを伝えても、お客様には形だけの謝罪に聞こえてしまうこともあるため、「お手数をおかけしたこと」「ご心配をおかけしたこと」「不快な思いをさせてしまったこと」など、相手の心情理解を踏まえた具体的な言葉を入れて、お詫びを伝えることが大切です。
例
- お手数をおかけいたしまして申し訳ございません。
- ご心配をおかけいたしまして申し訳ございません。
クレームの内容を確認する
ここから具体的なクレームの内容をお聞きしていきます。5W1Hに基づいて問題となる事柄が起きたのはいつのことであり、現在どのような状態となっているのか、お客様は何をしてほしいと思っているのかなどを正確に把握することが重要です。以下のような観点で話を聞きながら、しっかりと記録も取っておきましょう。
- いつ、どこでトラブルが発生したか?
- どのような事が起こったのか?
- 何に対して不満を感じているのか?
- 誰が不満を感じているのか?
- 問題点はどのようなことであると考えているのか?
- 今後どうしてほしいと思っているのか? など
解決策を提示する
内容の詳細が明らかになったら、お客様にどのように解決していくかということをお伝えします。「このように対応させていただきたいのですが、いかがでしょうか?」とお客様の意向を確認しながら話を進めましょう。
一旦事実調査が必要になる場合や担当者に引き継ぐ必要がある場合には、お客様に丁寧に説明を行います。お客様としては迅速な解決を求めていますので、その場で解決できないとわかるとさらなるクレームに繋がってしまうこともあります。したがって、なぜ確認が必要なのか、いつまでに確認してご連絡できるのかを明示して納得を得ましょう。
お詫びと感謝を伝える
事実を確認した結果、会社に責任があると判明した場合には、再度改めて丁寧に謝罪を行います。そして今後も真摯に対応していく姿勢を示し、貴重なご意見を頂いたことへの感謝を伝えることが大切です。
例
- 今後このようなことが二度とないよう、再発防止を徹底して参ります。
- この度は貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。
- また気になることがございましたら、いつでもご連絡ください。
再発防止策を実行する
クレームをいただいたら、再発防止を徹底しましょう。社内で今回のクレームの内容を共有し、どうすれば未然に防ぐことができるのかアイディアを持ち寄り、業務マニュアルを整備しましょう。もしクレームが起きた場合の対応もマニュアルにまとめておくことで、決められた手順に沿って対応を進めることができるため、迅速な対応が可能になります。また、ミスを起こした社員やスタッフと振り返りの機会を設けて、改善のための合意形成を図ります。同時に深く落ち込んでいる場合には精神的なフォローも忘れずに行いましょう。
クレーム対応の良い例
それではクレーム対応における良い例を会話面・態度面・スピード面に分けてご紹介しますので、社内のクレーム対応の様子を振り返ってみてください。
会話面
会話面では、正しい敬語を使うことができていると印象が良くなります。また、お客様の発言に対して「そうですね」「よくわかります」「ごもっともです」など肯定的な表現を使っているのも良い例です。よく理解してくれているという印象を与える効果があります。また、そのまま伝えてしまうときつい印象や不快感を与える恐れがある内容をやわらかく伝えるために前置きとして添える言葉を「クッション言葉」と言いますが、クレーム対応でも効果的です。例えば、以下のようなものがあります。
例
- 大変心苦しいのですが、○○○○
- ご期待に添えず申し訳ありませんが、○○○○
- お手数をおかけいたしますが、○○○○
態度面
言葉だけで取り繕っていても、表情や態度が伴わなければお客様の納得感には繋がりません。クレーム対応においては真剣な表情で話を聞くといった態度が効果的です。また、謝罪とともに最敬礼をしたり、お客様が話している時にはしっかりとうなずいて共感を示すのも良い例です。
スピード面
クレームを放置せずにスピード感をもって、迅速に対応できていると良いです。特に問題が速やかに解決されたとお客様が感じると、取引を継続したいと思う割合は95%にまで上昇するというデータがありました。クレームをいただいたら担当が誰であっても迅速に適切な対応を行い、検討が必要な場合にはいつまでにご連絡するのか、なぜ時間を要するのかということを明確に伝えているのが良い例です。
クレーム対応の悪い例
反対に以下のようなクレーム対応をしてしまうと、お客様をさらに怒らせてクレームを長期化させてしまう恐れがあります。ここではクレーム対応中にやってはいけないことをご紹介します。
会話面
会話面での悪い例としてお客様の話を途中で遮って反論をしてしまうというものがあります。また、事実確認ができていないのにお客様の話を疑ったり、否定したりするのもしてはいけません。さらに言い訳をしたり、ごまかしたりするような発言は無責任であるという印象を与えて、さらに怒りをヒートアップさせることになります。
態度面
態度面での悪い例として、腕組みをしたり、後ろで手を組んだりするのは威圧的で反省していない印象を与えます。また、軽率な笑顔を見せるのも良くありません。
スピード面
クレームをいただいてからの対応が遅かったり、担当部署が違うからなどと顧客をたらい回しにしたりするのも誠意のある対応とは言えません。
クレーム対応研修のポイント
ここまでクレーム対応の基本手順を確認してきました。最後に、社員やスタッフに対してクレーム対応における大切な心構えを理解してもらうための研修を実施する場合のポイントをお伝えします。
クレームが起こる背景を理解する
本記事でご紹介したようにクレームには大きく分けて、「顧客対応の質」「商品の欠陥」「情報の食い違い」といった発生原因があります。自社ではそれぞれどのようなケースが考えられるのかを具体的に想定しておくことが重要です。
相手の心情を理解することが重要
クレーム対応ではお客様の立場に立って心情を理解することが何より大事になります。研修においても、お客様のどのような言動から心情を理解すると良いのかを学びましょう。
冷静に対処できる力を身につける
対面や電話など、どのような状況でクレームが入ろうとも、基本手順に沿って正確に対応していくためにはセルフコントロールが必要です。研修ではお客様の勢いに流されずに冷静に対処するためのコツを身につけましょう。
様々なお客様への対応アイディアを学ぶ
お客様には様々な行動特性を持った方がいらっしゃいます。あるお客様には効果的だった対処方法が、あるお客様には非効果的であることもあり得ます。ここでは世界中で100万人以上の人々に活用されている「DiSC理論」(DiSC®とは?, HRD株式会社)についてご紹介します。人の行動特性は、以下のD,i,S,Cの4要素を組み合わせたスタイルに分類されます。
D(Dominance):主導
意志が強く、勝気でチャレンジ精神に富み、結果をすぐに求める傾向があります。
i(influence):感化
楽観的で社交的、アイディアを分かち合い、熱意を持った行動を好む傾向にあります。
S(Steadiness):安定
思いやりがあり協力的、一貫性があり着実な行動を好む傾向にあります。
C(Conscientiousness):慎重
仕事の質を高めることを重視し、緻密で正確性の高い手順を求める傾向にあります。
クレーム対応時に目の前のお客様がどのスタイルに当てはまるのかを見極められるようになると、相手が何を優先しているのかが理解できてスムーズなコミュニケーションが取れるようになります。研修におけるDiSC理論の具体的な学習方法についてはお問い合わせください。
まとめ
今回の記事ではクレーム対応の基本手順と、社員やスタッフが大切にしたい心得について考察してきました。サービスや商品に対して不満を持ったお客様のうち96%は何も言わないというデータがあるように、1件のクレームの裏にはさらに多くのお客様が不快な思いをしているということを忘れてはいけません。お客様のSOSを真摯に受け止め、改善していくことで、企業や組織は今後も発展を続けられることでしょう。
そのマインドセットへのアプローチ、間違っていませんか? アチーブメントHRソリューションズでは、人の行動の根源である「マインドセット」に着目し、個人の「内発的な動機付け」に基づくアプローチによって、人財育成や組織開発を成功に導きます。
正しく研修に取り入れた企業様では「社員の離職率が30%減った」「売上が昨年対比160%を実現した」といった成果を生み出し、進化を続けています。 専門コンサルタントがプロの視点であなたの問題を解決する道筋を示しますので、真に価値のある教育施策を共に考えていきませんか?