いま話題の書、「ティール組織」。この本に日本企業として唯一取り上げられたのが株式会社オズビジョンです。オズビジョンの組織作りは、いかにして行われているのか?同社代表・鈴木社長にインタビューをさせていただきました。企業理念に一貫した組織作りに迫ります。
「ティール組織」に載ったオズビジョンの組織作りとは?
「ティール組織」に取り上げられたオズビジョンとは
株式会社オズビジョンについて
株式会社オズビジョンは「購買プラットフォーマーとして次のイノベーションを起こす」という事業ビジョンの基にポイントサイト「ハピタス」をはじめとしたWebサイトやサービスを展開しており2006年5月創設、従業員数は54名(2018年7月現在)のベンチャー企業です。
同社は、2018年1月に発刊された書籍「ティール組織」の中で、ティール組織型の組織作りを実践している企業事例として日本企業で唯一取り上げられ注目されました。「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」という企業理念を掲げ、常識や慣習にとらわれない柔軟な組織作りを行っています。
「ティール組織」に取り上げられた取り組みの今
「ティール組織」では、働く人が自分のありのまま(全体性)を職場に持ち込めるようにする事で心理的安全性を確保し、働く人の情熱と可能性を引き出す事が特徴の一つとして扱われています。そしてオズビジョンが職場に全体性を取り戻すことに取り組んでいる事例として、「ティール組織」の原著が書かれた2014年頃に実施していた「Thanks day」と「Good or New」という二つの制度が取り上げられたのです。
「Thanks Day」という制度は、希望者に対して年に1日、誰かに感謝をするための特別な休暇と現金2万円を支給するという制度でした。代わりに、社内ブログで誰にどんな感謝をしたかを共有してもらうことが必須となっていましたが、福利厚生の位置づけとしての機能もあったそうです。 「Good or New」は普段の仕事の関わりでは話をしない人同士が会話をする機会をつくるために、毎朝ランダムに5~6人のグループを作ってGood(メンバーのいいところ)かNews(24時間以内にあったニュース)を順番に話していく制度でした。
しかし、実は「ティール組織」に取り上げられたこの2つの取り組みは既に実施をしてないそうです。「Thanks Day」は導入後しばらくすると、制度を利用する社員が減少し、現在では制度として実施されていません。「Good or New」も社内のコミュニケーション活性化には一定期間貢献したということですが、同時に「何か話さなくてはいけない」という義務感の発生という副作用もあり、オフィス増床のタイミングから実施をしなくなっています。
「我々にとってこれらの2つの取り組みは、今までやってきた無数の実験のほんの一部に過ぎない」と語る同社代表の鈴木社長。「ティール組織」に取り上げられた制度が無い現在のオズビジョンは一体どの様な組織作りを行っているのでしょうか?鈴木社長にオズビジョンの現在と未来について伺いました。
鈴木社長が考える組織と人の本質
Q: 御社の理念は「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」というものですが、この理念を打ち出した背景についてお聞かせください
結論から言うと、それが人の働く目的だと思っているからです。私にとっての理念というのは、人が企業で働く上で拠り所となる、その企業の存在意義だと思っています。「そもそも企業とは何か?」と問われたならば、私は「働く手段の一つ」と答えます。企業というのは人のためにあるのであって、企業のために人がいるのではない。企業というのはどこまでいっても人の働く手段の一つに過ぎないということなんです。
そこで「じゃあ、人が働く目的ってなんなのか?」と考えるようになりました。当時8人しかいない社員にメールして聞いてみたり、面接で聞いてみたり。内閣府の調査結果や自分自身の内省など色んな方法で答えを出そうと悩んでいたときに、マズローの欲求段階と出会って色んな点がつながったんです。
Q: 人間には根本的5段階欲求があり、最下層に食う・寝るなどの生理的欲求、次に住居などを求める安全欲求、家族仲間などの所属欲求、社会的承認欲求、自己実現欲求とピラミッド構造で積みあがっていく、というマズローの欲求5段階説ですね。
そうです。ただ、現時点でマズローの最上位欲求である自己実現ができている人間は人口の1.8%しかないという事実に驚いたんです。一方で、これから社会の発展と共に変わると思いました。現代社会では生存自体はそう難しくないので、そうすると人間はより上位の欲求に向かっていくと、自己実現をしたいという欲求がもっと一般的なものになると思っています。そういう意味で現代社会は過渡期で、欲求の階層を行ったり来たりしながら少しずつ上に行っている気がしたんです。
働く目的という視点で歴史をなぞってみても、狩猟などの生理的欲求の充足目的から安全のために集団を作り、社会を形成して所属・承認と変化してきた。今後は、仕事も間違いなくお金のためや社会的承認から本来の自分を取り戻したい、やりたい事・解決したい事のために働きたいにシフトすると思って会社の理念もそれに通ずるものになりました。
オズビジョンの理念を貫いた組織作り
Q: 理念に基づいた組織作りをどのように社員に理解してもらって進めていったのですか?
とにかく理念を浸透していくために色んな事をしました。理念浸透をしていこうとする中で、アチーブメント株式会社を知り、私自身も個人向けのコースを全て受けましたし、リーダーたちもお世話になりました。そこで学んだものを、自社に合う形でクレドとして展開してクレドの浸透を促したり、アチーブメントのコンサルタントの方に来ていただいて社内研修もしたり、採用も打ち出し方をがらっと変えました。また、事あるごとに理念を説明したり、いろいろと手を尽くしました。
Q: 理念を浸透していく中で衝突があり、社員が辞めてしまったというお話しを伺った事があるんですが、具体的にどういう衝突があったんでしょうか?
自己実現という在り方を組織の理念としたときに、重要な事として「全人格的に社員が立ち振る舞える組織」が自己実現し易い環境になると思ったんです。社員は職務記述書に書かれていることを忠実に実行してくれるものだ、というような機械的な扱い方を会社はしがちですが、当の働く人間は色んな感情や思いとかがたくさんある中でパフォーマンスとか人間らしさが存在していますよね。
プロとして感情をなるべく出してはいけないという暗黙の了解がある世の中で、「全人格的に社員が立ち振る舞える組織」を目指して、会社の中で感情を出していこうとしたわけです。それが自然だと思ったのですが、結果、自然体で居ようとすること自体が、これまでの常識とかけ離れ、逆に不自然に感じてしまう社員がでてきてしまいました。こっちとしては、人間として感情もあるんだからそれを目を背けないで取り扱おうとしてるのですが、稚拙で未熟な会社に見えたりする人たちも居てそういう衝突がありました。
Q: それをどう乗り越えたのでしょうか?
乗り越えたというより、それでも理念の浸透を貫いた結果、人が入れ替わったという感じです。理念に共感した人間が残って、共感した人間が新たに入ってきた。一方で残念ながら辞めていった方も最終的に結構な数となりました。理念経営を考え始めたのが2009年で、2010年の4月から理念経営を基にクレド浸透などの施策を始めて結果的には総じて5年くらいかかってようやく落ち着きました。
Q: 落ち着くというのは?
理念が浸透してきて人の入れ替わりも落ち着いて離職者が減りました。家族的で雰囲気が良いという会社のカラーが出てきました。理念を浸透するために何かをしようとしなくても、「オズビジョンってこういう会社だよね」というのが自然と感じられるようになってきたのです。落ち着いたころには、「ティール組織」にも載った「Thanks day」や「Good or New」などの施策は必要性がなくなってきたと同時に、社内でも自然消滅的な流れがあったので辞めました。
Q: それでは落ち着かせるために施策を打ったという事でしょうか?
そうですね。色んな施策を打ちました。ただ「ティール組織」に載ったことで誤解されがちなんですが、印象と実態は違っていて「Thanks Day」や「Good or New」をやったりして結果良い会社になった、と聞くとこの施策が凄く効果的で素晴らしいものであると思ってしまうんですけど、実態としては踏み絵だっただけで、この施策にアレルギー反応が無く会社に残った人が結果的にオズビジョンにマッチする人である、となっただけなんです。
取り組みに現れた理念浸透の兆し
Q: その結果、理念浸透の結果が少しずつ現れているとお見受けします。先ほども話に出た人材の入れ替わりを支えた採用はどのようなものだったのでしょうか?
これまでの採用というのは企業が門戸を開いて学生を待っていたのですが、良い人を採るには自分たちから動くべきだ、とある社員が提案してきました。具体的には香川や青森などに出向いてハッカソン(※エンジニア採用イベント)を開いてエンジニアを採用しました。この取り組みがこれからの世の中の採用のスタイルになるよねという支持と評価を得たんです。今では韓国やベトナムにも足を運んで採用をしていますよ。この事例の理念との結びつきでいうと、今まで就職サイトに出稿して母集団を形成していたのに、それじゃだめだという事で自ら手を挙げた社員がいたということです。自分の意志を貫こうとする姿勢もさることながら、これまでの慣習を変える挑戦って自己実現の一つの形だと思うんですよ。
Q: リスクがある中でとても勇気のいる事ですね。とはいえ、こういう提案は会社からすると「面白いけど大丈夫?」となると思うんですが、どういう姿勢で向き合われているんでしょうか?
基本的にはとりあえずやってみようという感じです(笑)もっと言えば、「そもそも行っていいですか?」と聞かないで行っちゃうんですよ。今度もカンボジアやインドに行くと言ってますし。
とはいえ、ビジネスですのでしっかりと投資効果を考えた上でやっています。やはり思いや自主性というものを重んじると言っていますので、あまり妨げる方向で考えるのではなく、「どうしたら出来るの?」という考えを優先する文化です。提案してきた社員も上長などの後押しを受けながら自主的にやっていきました。
Q: なるほど。チャレンジの環境は成長にもつながりますね。他にもチームビルディングの合宿ではプライベートの事まで色んな事をさらけ出すという事ですがそれによって自己実現につながるという事でしょうか?
自己実現を目指すためには、全人格的なあり方でないと追求できないなと思っています。 例えば、「エンジニアの君はプログラミングと要件定義だけやってくれ」と言っても、その人にとって要件定義やプログラミングはあくまで自己実現の手段の手段の手段くらいの事なのであって、そこだけの会話や扱いをしてしまうと本人の視野が狭まって自己実現なんて考えなくなってしまうんです。一流のエンジニアになりたいという本来の願いがあったとしても徐々に変化していって、いつの間にか職務や目標の達成を追いかけるようになって手段が目的になってしまう。そんな自己実現に対するブレーキがかかっている状態に陥らないために、全人格的な環境を促すような取り組みを合宿でやっています。
Q: イタリアのリモートワークについてはどういう背景があって採用されたんでしょうか?
リアルな課題でいうと本当に優秀な人を採用したかったんですが、日本国内では会社の認知度など色々な面で難しかったんです。ただ海外に目を向けたとき、海外で活動している優秀な人がいっぱい居るという状況だったんです。現代では24時間リモートワークが可能なので、必ずしも同じオフィスで働いてもらう必要は無いと感じていました。
ならば地域不問で人材を採用してもいいとなって募集をかけたところ、イタリア在住の方から応募が来たんです。採用担当も予想外で驚いたようですが、とても優秀な方でしたし、日本からイタリアに移住しちゃうくらいの方なので、自己実現というオズビジョンのキーワードにもマッチするだろうということで、リモートワークで採用させて頂いたんです。ほかにもセルビアやドイツに居る方もリモートワークで働いてもらっています。
Q: 大変、先進的ですよね。リモートワークとなると色々難しさもあると思いますが、リモートでも働ける方かどうかはどのように判断しているのでしょうか?
大事なことは自律性だと思います。私たちは自律的な方を見極めるときに、その人はどう思っているかやどう感じているのかなどの想いベースではなく、どんな働き方をしてきたのかやこういう場合どんな行動を取ってきたかなどの事実ベースで聞くんです。
例えば、「貴方はどういう働き方をしてきましたか?」「なぜそのように働こうと思ったんですか?具体的な事例を交えて教えてください」「その時、周囲にはどういった人たちと居ましたか?」などの事実を聞いていくと、おのずと自律的な人間かどうか見えてくるんです。悪い質問では「あなたリモートできますか?」「はい、できます」というやり取りになってしまいます。
重要なのは自律的な志向性をもって働いたという具体的な事実があったかどうかなんですね。
オズビジョンは次のステージへ
Q: ここまで過去からの経緯を中心にお伺いしたんですが、現在、理念の達成度合いとしてはどれくらいだとお考えですか?
いまは、7%くらいですね。7%というのは全社員の中で「自己実現のためにこの会社で時間を過ごしてる社員は誰か?」と考えた時に、顔が浮かんだメンバーの割合です。4年前とかだと3%とお答えしていましたのでだいぶ上がりましたね。
理念については全員が体現できていたら100%にはなるんですけど、自己実現そのものが抽象的であるので個人の中で常に変化しますし、企業にとってはフォロワーの存在も重要ではあるので100%に達成することが正しいかというと一概には言えません。
Q: さらに進化を遂げていくということですね。これからの3年後、5年後の具体的な姿というのはあるんでしょうか?
実はいま、オズビジョンをもう一度再定義しようという活動をしています。会社の方向性とか未来とかはこれまでも何度も考えてきていますが、今までは主要な人たちで合宿して方向性を決めて、社員にアンケートをとった後に情報を開示して浸透していくという方法でした。今回は全社員の巻き込み方が従来と違っていて、合宿を開こうというチャットから公開して、情報の透明性を高めて再定義を進めています。
再定義をするために、変えちゃいけない事は一切無いです。コーポレートブランディングなども外部からデザイナーを招いて再定義しているのですがこれもノールールです。社名を変えてもいいし、そもそもの理念を変えてもいい。理念を変えるということになれば、そのくらいしか浸透しなかった理念だということですから。
これまでのオズビジョンはどうしても「創業者である鈴木良の会社」という色が強かったのですが、次のステップとしてチームで経営する会社に移行していく事で、オズビジョンは新たな次元に立つと思っています。再定義の中で出てくる会社の在り方は13年前に決めた在り方とは違うかもしれませんがそれがオズビジョンの新たな姿だと思います。
Q: さらに組織を進化させていこうとしていらっしゃるのですね。理念を貫く経営って、簡単なようですごく難しいですよね。多くの経営者は貫きたいけれども、なかなか一筋縄でいかなくて苦労している方が多いと思うんですけど、そういった経営者の方々に鈴木さんがアドバイスするならばどういった事があるでしょうか?
「自分は何のために経営をしているのか?何のために仕事をしているのか?」という所に立ち返ったり、もっと明確にしたりするとよいのではと思いますね。それが例えば「周りの経営者に認められたい」とか、「過去の劣等感やコンプレックスを払拭したい」という方向にむくと、どうしても葛藤や苦しみが生まれてしまうと思うんです。
そうではなく、自分の可能性を使い果たすような大きな取り組みをしたくて、その手段としてベストな方法が経営をすることだと認知できると、他がどうだろうと貫けると思いますし、ありのままで居やすいと思います。
– 素敵なメッセージありがとうございました
まとめ
インタビューの中でも特に印象だったのは「組織は人のためにあるのであって、組織のために人があるのではない」という鈴木社長の言葉でした。インタビューを通してオズビジョンが働く人の幸せを重視した組織作りのために、多くの努力をしてきた歴史を知ることができました。
「ティール組織」に取り上げられたことで、また注目を集めたオズビジョンですが、「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」という理念をたて、様々な衝突や葛藤の中でも理念を貫いた結果、書籍「ティール組織」に取り上げられたに過ぎないということがよく理解できました。理念に基づいて一貫した経営は、オズビジョンの再定義化をはかる中で、今後さらなる進化を遂げていくことでしょう。進化を遂げたその組織は、「ティール組織」すらも、超えた組織になるのか。今後のオズビジョンに、さらに注目です。
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