「トレーニングとは、一過性のイベントではありません。プロセスです。職場でこそ成果が生まれるものなのです。言い換えれば、トレーニングとは、開催されることが目的なのではなく、現場で成果を出すためにやるものです。今日は、実証済みの学習戦略について紹介していきます」
とボブ・パイク氏はセッションの冒頭で語りました。そして、下記の9つのマスを紹介し、
「学習の効果に対して、最も影響を与えたのは、どのタイミングの誰のアクションでしょうか?」
と問いかけたのです。
縦軸には学習に関係する人として、上司、受講生、講師が並んでいます。横軸は研修前、研修中、研修後という時間の流れを示しています。
ボブ・パイク氏は、「研修の成果に関係するのは本人だけではない。ましては研修中だけではない」ということを前提に、「誰がいつ、何をすると、学習効果が続くのか」ということを調査したそうです。
ボブ・パイク氏の調査によれば、次の順番で、学習効果に影響を与えるそうです。
1:研修前の上司
ex.研修前に、上司から受講生に対して、研修の目的や受講生に期待することを面談で事前に話し合っている
2:研修前の講師
ex.参加者の事前の情報を得て当日の準備をする
3:研修後の上司
ex.受講生の実践を職場で支援する
4:研修中の講師
ex.研修中の講師の伝達スキル、講義のスキルが高い
5:研修中の受講生
ex.本人の受講に対する参加度、主体性
6:研修後の受講生
ex.決めたアクションプランをどれだけ実行するか
7:研修前の受講生
ex.受講生本人による受講準備
8:研修中の上司
9:研修後の講師
8、9は、ほとんど学習効果とは関係なかった、ということが調査で明らかになっているそうです。
先ほどの図を埋めると下記のようになります。
驚くべきは、受講生本人が一番最初に出てくるのが5番目、ということではないでしょうか。
ボブ・パイク氏によれば、「上司との事前面談をして研修に参加した受講生」と、「面談なしで研修に参加した受講生」だと研修後のアクションプランの実行率に、60%以上の開きがあったということです。上司の研修前後の関わりが、いかに学習効果に影響するかがわかります。
ボブ・パイク氏は、研修実施の際は、学習効果を高めるために下記の5つを紹介していました。
- 受講生に対して学ぶ内容や実務への活用の重要性を伝える
- トレーニング後にOJTで活用する際の支援を行う
- 受講生が自分自身の学習に対して責任を取る
- 受講者の研修準備に関する指導を受講生の上司に行う
- 受講生が内省し、行動計画を立てる時間を設ける
また、ボブ・パイク氏は、学習効果を下げる、もっと言えば学習そのものを無駄にする可能性のある8つの要素も紹介していました。
- 誤った参加者が参加していること
- 学習者の参加意欲が低いこと
- 組織的なサポートが弱いこと
- トレーニング内容が直接的に関係ないこと
- サポートツールが使い慣れないこと
- 十分に実践練習ができていないこと
- 事例が関係ないこと
ご覧いただければご理解いただけると思いますが、これらの要素は、全て研修の前に準備すれば回避できることです。研修をイベントとして実施するだけになってしまうと、この8つの落とし穴にはまってしまうのではないでしょうか。学習効果を出すこと、すなわち、受講生が現場で成果を出すことを目的として逆算する、ということは、これらの8つの要素をしっかりと検討し、事前準備をするということです。
ATD登壇歴41年のボブ・パイク氏の講義は、ウィットに冨み、非常にわかりやすい内容でした。
すぐに取り入れられる内容も多く、今よりも研修の学習効果を上げたい、と思ったならば、ボブ・パイクの提示する学習効果の高めるポイントを研修の設計の中に組み込んでみてはいかがでしょうか。