Q: 創業のきっかけを教えてください?
2016年に、仲間内の経営者と話していて、偉大な経営者と彼らがご健在のうちにお会いしておきたいねっという話になったんですよ。ドラッガーやジャックウェルチのような著名な経営者は次々といなくなってしまう。その前に会っておこうと。そこで、イーロンマスクや孫正義といった名前も挙がったのですが、結局、みんなでリカルド・セムラーに会えたら嬉しいという話になって、2017年6月にセムラー氏を日本に呼んで講演をしてもらいました。その公演を聞いて、セムラー氏の考える理想の組織像と自分の考える理想の組織像が似ていて、SSIJを作ろうと決めました。
Q: 秦さんの考える理想の組織像とはなんでしょう?
理想の組織を考えるうえで重要なことは、公平である、ということです。正確には、最初に与えられる機会が平等であるという意味での公平性が保たれていることです。それは何も給料一律ということをいっているのではありません。評価制度って多くの場合人事部や社長が考える。それによって一般社員は評価される。この時点で公平ではない。評価制度を決めるそのプロセスにメンバーが参画していたかどうか大事ということです。
多くの企業では経営者は自由です。自分で給料を決めて、利益配分も自分で決められる。利益出たら保険で長期投資にするか、キャッシュとして残すかも自由です。好きな時に旅行して、経費にできるかもしれない。その一方で、多くの一般社員はこのようなことができないものと最初から当たり前のように考えられている。この差は何なのか?と疑問に思っていました。
同じフィールドで、民主的に戦うから面白いのであって、片方がOKでもう片方がダメというのは、僕は好きではありませんね。
Q: セムコスタイルのどのような考え方に共感なされたのでしょうか?
セムラー氏は、「本当にそうなのか?」と問いかけるのが好きなんです。本当に、社長以外経費を切れないのか?社長以外自由でないのか?本当にマネージャーが人材育成をするのか?本当に、メンバーが育成され、評価される必要があるのか?このように「本当にそうなのか?」という問いを繰り返し、「本来どうあるべきなのか」という考え方をしていく。
例えば、評価に関して言えば、評価とは本来、その人の人生を豊かにするものなんです。その人が何点と決めてしまうとそれは評価ではない。その人が実現したい未来に関して、その未来を叶えるために必要な、根本的なアドバイスこそが評価なんです。だから報酬と評価は別です。報酬は仕事に対して払われる。つまり、仕事に対してこれくらい払われます、という報酬に関する合意が最初にされ、仕事がおわれば合意に基づいて報酬が払われる。その後、未来に対してアドバイスがされます。
僕は、こういったセムラー氏の根本的なありかたについて考えることに共感しました。
クライアント企業様が、セムコスタイルのフレームワークを使って、自社の組織を進化させる機会を提供するコンサルティングを行っています。具体的にはまず、マスタープログラムという6日間の研修プログラムを行い、そこに代表取締役や人事の責任者、社内の影響力の強い人を呼んでいます。その場でセムコスタイルが持つ5つの原則をマスターしてもらいます。
- trust 信頼
- alternative control 代替コントロール
- self-management 自主経営
- extremely stakeholder alignment 究極のステイクホルダーとのアライメント
- creative innovation クリエイティブイノベーション
この5つの原則にはそれぞれ3つの柱がありますので、全部で15の学ぶべきポイントがあります。研修プログラムでは、レクチャーだけでなく、例えば、「信頼ってこういうことなんだ」というのを体感で覚えてもらうための体験も含まれています。
マスタープログラムをお受けしてもらって、その後任意ですが、3つのプログラムがあります。
全社員あるいは、リーダー陣にもこの5つの原則を理解してもらい、それを使って経営スタイルを進化させ る議論を行うアプローチを行います。ファシリテーターを社内に派遣して、ファシリテートをしてほしいという企業様向けのプログラムです。
セムコスタイルを広めたいという人たちに認定コンサルタントになってもらう。彼らは①自社向けにファシリテーターをする。②他社にセムコスタイルをコンサルティングとして売っていく。ことができます。
最高の働き方を模索し続ける同僚間同士の学び場として、定期的にフォーラムを開催しています。例えば、SSIJのクライアントである、A社の困っていることを別のクライアントであるB、C、D社で助けて教えあうことが考えられます。
マスタープログラムを受けた方は、大体このフォーラムを受け、中にはオーダーメイドを受けたり、認定コンサルタントになる人たちがいます。
結論から言うと、どの企業でも導入できます。
多くの方が難しいと感じているのは、「奇跡の経営」の組織形態だけを真似しようとしているからかもしれません。階層がなかったり、自分たちで評価制度を決められるというのは原則を中心に考え続けた結果に過ぎません。人は、この結果に、ティールやホラクラシーといったラベルをつけていき、ティールやホラクラシーを作るにはどうすればいいかを考えています。
しかし大事なのは、その本質です。セムラー氏は、「本当にそうなのか?」という問いかけをベースに、人を中心において、本来どうあるべきかということを考え続けた結果、今の形態になったのです。大切なのは、メンバーを一度参画プロセスに加えて考えた場合に本来どうあるべきなのかを一緒に問い、考え続けていくことです。
このプロセスを抜きにして、形態だけ無理に当てはめようとすると、大きな組織ではできないのではないか?この業種ではできないのではないか?という一見本当そうに聞こえることが言われます。
しかし、セムコスタイルの原則、例えば「信頼」に関して考えることは、どの規模の会社でも、どの業種の会社でもできますよね。先ほど5つの原則があり、そこには3つの柱があるといいました。信頼の柱の一つである、「adult as adult (大人を大人として扱う)」に関して言えば、本当に人を信頼して大人を大人として扱ったときにどういう評価制度がいいのか、どういう職務形態がいいのか?ということをみんなで考えていきます。例えば7万人の会社で評価制度を作るとして、「興味ある方いますか?」と聞くと、1万人が手を上げるかもしれない。そこから委員会を作り、どんどん選抜していって、最後は5人になるかもしれませんが、多くの方ができるだけ民主的に参加してみんなで考えていくことはできますよね。
この考えるというプロセスは、繰り返しには何ますが、二人のベンチャーだろうが、7万人の大企業であろうがみんなできると思うのです。
その結果として、もしかしたら、「奇跡の経営」のような形態になるかもしれないし、全く違うような形態になるかもしれません。制度としての形は異なるかもしれませんが、本質的な「奇跡の経営」、それは「働く=最高に素晴らしい!(Make Work Awesome!)」という会社作りは達成できます。社員は、例えば意思決定プロセスに参画しているという満足度もあがるし、信頼されることに対する喜び、貢献できることへの価値を感じ、いきいきしていきます。
Q: 導入するとして、どこから手を付けていくのでしょうか?
唯一無二の正解はありません。僕たちは組織作りをジャーニーと呼んでおり、決められた解はありません。ただ、経営者の方に、「どの部署からやるのか?」、「誰からやればいいでしょうか?」と尋ねることがあります。経営者の方にこの質問をするのは、やはり、経営者がこの考えに共感しない限り、この考え方をベースに組織を作っていくのは難しいからです。
また、決められた正解はありませんが、基本的なやり方としては「小さく実験する」というのがあります。評価制度を作るなら、まずは役員の分だけそれで考えてみるとか、ある一つの営業チームだけ子会社化してみて、そこで評価制度を作ってみるなどです。
Q: 導入することでどういう結果が起こるのでしょうか?
セムコスタイルは、インパクト、パフォーマンス、ハピネスの3つにブレイクスルーを起こそうとしています。インパクトとは、その企業が実現したいことで、例えば、僕の会社では「人と組織が自らを誇りに思う」というインパクトを最大化しようとしています。パフォーマンスは売上や顧客満足などです。幸福度は文字の通りです。ホラクラシーやティールでは、幸福度中心の考え方に見えますが、セムコスタイルでは、3つ全てにブレイクスルーを起こすことをお手伝いします。そのため、KPIとかに関しては非常にシビアです。
Q: どのように、3つのブレイクスルーを起こしていくのでしょうか?
ブレイクスルーは弊社が起こすのではなく、クライアントの社員の方一人ひとりが、起こしていくものだと考えています。そこで、弊社がサポートできることは、例えば、信頼をベースに社員の本当の意味での関心を引き出すことです。関心のあることは強みであることが多く、社員や組織の強みに焦点を当てればよりパフォーマンスはでやすいですよね。例えば、営業兼コンサルタントの方でも、人材育成に興味があれば、マネージャーではなくても、この人が人材育成をやったほうがいいという考え方になります。
Q: 個人が関心のある仕事を行うようになると、誰もやりがたらず、行われない仕事が出てくるのではないでしょうか?
まさにそれが「本当にそうなのか?」ということなんですよ。例えば三人でチームを組んでいてある仕事をする、という合意がとれたとします。この時、それぞれが関心のあることに手を挙げていくと誰もやりたがらない仕事が残る、というのはあたかも正しく聞こえますが、「本当にそうなのか?」ということなんです。お互いが信頼しあっていれば、実際は誰かがその仕事を巻き取ってくれるかもしれません。実際、私はそのようなケースを多く見てきました。また、実はその仕事がいらないという可能性もあります。
Q: 企業がセムコスタイルを導入するときに、社員はその時、やらなければいけない既存の仕事があります。その中で、どのように、自分の関心のある仕事を見つけて、行うのでしょうか?
少しずつ、小さくやっていくということですね。今までの仕事が10あるとして、それをいきなりすべて自分の興味のある仕事に変えてしまうのは実際難しい。だとすると、10のうち、1をまず自分が関心のある仕事に充てていくということが大事になってきます。小さく実験し、効果的かどうかわかれば次につなげるべきかわかります。
「民主的に改革を進めていく中で、マネージャーなどの経験のある人からしてみれば明らかに違うという点で落ち着くことはないですか?」という質問をたまに受けます。こういった場面では、まずは明らかに違うという考えが「本当にそうなのか?」と考える必要があります。その上で、どうやっても明らかに違うとなった場合、小さく実験するということが機能します。例えば、部下の意見をまずは小さく実験してみる。そのうえで、やはりうまくいかなそうであれば、マネージャーが中止をするということは、別に間違いではないのではないでしょうか。
Q: 改革を進めていくうえで、最後の意思決定はどうやって行きますか?
ほとんどの場合、民主的にファシリテーターが場を作っていき、みんなで合意が取れていきます。それでも決まらない場合は、最終的にトップダウンになることも悪いことではありません。「決め方をみんなで決めようぜ。それでも決まらなかったら最後は俺が決める」という合意が取れていればいいと思います。ただ。トップダウンをし続けるとどんな弊害が待っているかを考えることが必要ですね。
Q: 改革を進めていくうえで、どういう場合にスムーズにいくのでしょうか?
原則に基づいたアプローチをすることです。信頼とは何か?小さく実験するとは何か?意思決定を彼らに任せるとしたらどこなら任せられるかなど、みんなが考えられることから始めていくことです。いきなり、結果である組織制度などに無理矢理当てはめようとすると難しいですね。
「奇跡の経営」では、組織階層のないフラットな組織体制であったり、社員一人一人の業務フローやキャリアプランもないといった組織の形態面のみが注目されがちです。しかし、本当に注目するべきなのは、奇跡の経営の組織形態を築く基になった、「人は本来どうあるべきなのか」という人を中心においた大原則です。そしてその大原則をもとに、5つの原則を学び、小さく実験してはその原則に立ち戻り、PDCAを回していくそのプロセスこそが重要でなのだということを感じさせていただくインタビューでした。みなさまの組織作りにも参考になれば幸いです。
なお、今回のインタビューでは5つの原則のうち、最初の信頼を中心にお話をしていただきました。残りの原則についてなど、詳しくはSSIJのホームページにて、定期的な勉強会の案内をしておりますので、ご興味ある方はご参加ください。また、10月半ば頃に、秦様が奇跡の経営の作り方に焦点を当てた本を出版するとのことなので、お楽しみください。