パワハラを防止するための怒りのコントロール方法を学ぶ前に、なぜイライラや怒りが生まれるのかについて解説します。
怒りをコントロールして適切に対処するためのスキルである「アンガ―マネジメント」では、怒りを「第二次感情」と定義しています。そして、「第二次感情」である怒りの根底には、ネガティブな「第一次感情」が存在するとしています。まずはこの第一次感情と、第二次感情について押さえることが重要となります。
人間はそれぞれ、ネガティブな感情を溜めておくことのできる器のようなものを持っています。その器に溜まるのは、不安や寂しさ、悲しさ、不自由さ、承認欲求が満たされないこと、楽しくないといったマイナスの感情です。こういったネガティブな感情を、「第一次感情」といいます。そして、第一次感情は発散されない限り、器が一杯になるまで溜まっていきます。
器が第一次感情でいっぱいになると、それ以降に生まれた第一次感情は、器から溢れてしまいます。この器からあふれ出した第一次感情が、「第二次感情」の怒りになるといわれています。つまり、怒りは第一次感情が姿を変えたものなのです。
怒りがどのようにして生まれるのかが分かったところで、本題に入っていきます。ネガティブな感情が器からあふれ、怒りが生まれてしまった場合には、どのように解消したらいいのでしょうか。
生まれてしまった怒りは、発散しない限りなくなりません。ですが、人や物に当たるという発散方法を選択してしまうと、パワハラになる可能性があります。ですから、パワハラを防止するには、怒りという感情に振り回されて人や物に当たるのではなく、怒りという感情の根源をなくすことがポイントになります。
ほとんどの人は、怒りを発散する方法として、怒りの感情をぶつけることしか知りません。確かに、人に怒鳴り散らしたり、ものに当たることには、怒りを発散する効果があります。ですが、それでは怒りの原因となったネガティブな感情の発生を止められません。再びネガティブな感情で器があふれれば、また怒りが生まれてしまいます。怒りをコントロールするには、怒りのもととなるネガティブな感情に焦点を合わせ、ネガティブな感情が生まれる原因をつかむことがポイントとなってきます。
例えば、部下のミスに対して強く当たってしまう上司がいたとします。この上司の怒りの源泉であるネガティブな感情は、「部下への期待を裏切られた悔しさ」や「自分の責任になることへの不安」などが考えられます。怒りをコントロールするには、まずこの「悔しさ」や「不安」といったネガティブな感情を認識することが大切です。そのためには、自分の心の声に耳を傾けてネガティブな感情を探る必要があります。
そうはいっても、怒りがあふれている状態でネガティブな感情を冷静に探るのは困難です。そこで、怒りがあふれたときには、まずネガティブな感情を探ることのできる状態を作る必要があります。ネガティブな感情を探ることのできる状態を作ってから、自分の怒りを客観的に見てネガティブな感情が生まれている原因を解明し、それに対処することで怒りを根本的に解消することができるのです。ここでは、その具体的な対処法についてご紹介していきます。
怒りがもっとも強く感じるのは、最初の6秒間といわれています。これは、怒りを感じたときにアドレナリンが分泌され、それが6秒間かけて全身を巡るからです。この6秒間を怒りに支配されてしまうと、人や物に当たってしまいやすく、パワハラな言動を取りやすくなります。
ネガティブな感情を探るには、最初の6秒が過ぎるのを待つのがポイントです。6秒数えるのもいいですし、空を見る、目を閉じる、胸に手を当てて心拍を感じるなど、6秒の間感情を抑えられる方法を、各マネージャーに探してもらうといいかもしれません。
怒りを感じているとき、自分の感情を客観的に見るのは非常に難しいとされています。「なぜ怒っているのか」「どうしたら怒りが治まるのか」といったことを、怒りながら把握できる人はなかなかいません。怒りをコントロールするためは、最初の6秒間に耐えた後で感情から理性に主導権を移す必要があります。
自分の怒りを客観的に見る方法としては、紙に書くのが有効と言われています。紙に書くときには、「Why」「Who」「What」「Where」「When」「How」の5W1Hを意識して、「何に怒っているのか」「なぜ怒っているのか」を明確にします。
例えば、紙に「○○の態度が憎たらしい」「ミスをするなんてありえない」と書いた場合には、「○○」がWhoに、「ミス」がWhatに当たります。こうすることで、自分が何に対して怒りを感じているかが明確になります。紙に書くことで、自分の怒りを客観的に見やすくなるのです。この過程で解明される怒りの対象が、ネガティブな感情を生んでいる原因となります。
この原因を解消するには、怒りの対象に抱いている自分のネガティブな感情を特定する必要があります。例えば、「ミスをするなんてありえない」という怒りの源泉であるネガティブな感情は「ミスが自分の責任になり、評価が下がるのが不安」という感情かもしれません。
その場合、この感情を解消するために、ミスをした部下に対して「君が大きなミスをすると、自分の評価も下がるのではないかと不安になるんだ。計画を行動する前に一度報連相をしてくれないだろうか。」とお願いすることができます。自分のネガティブな感情を解消するためのお願いをして、そのお願いを相手が受け入れてくれたら、そのときにはすでに怒りは解消されているはずです。
怒りという感情は、どんなに頑張ったとしても防止することができません。ですが、怒りという感情の捉え方を変えることはできます。怒りとはネガティブな感情が溜まった結果、自分に余裕がなくなったことを教えてくれるものです。だとすれば、怒りを感じたときには「今の自分には余裕がない」と認識できますし、周りの人に「今の私には余裕がありません」と伝えることができます。そして、怒りが余裕のないサインであると気付いたならば、自分以外の人の怒りにも同じように向き合うこともできます。怒りを感じてイライラしている人に対して、同じように怒りで応じるのではなく、「相手が感じているネガティブな感情はなんだろうか」と配慮と思いやりを持って接することができるようになります。そうして怒りをコントロールし、相手の怒りともうまく付き合えるようになったとき、本当の意味でパワハラを防止することが可能になるのです。
アチーブメントHRソリューションズのパワーハラスメント防止研修では、「どんなマネジメントが正解か」「どんなコミュニケーションが適切か」という疑問に答え、部下の成長を加速させるマネジメント方法の学習によって効果的にパワハラを防止します。NHK・東京MX・読売新聞・毎日新聞にも取り上げられた大好評の研修です。